失敗しない物流情報システム導入のポイント! (序章)
情報システムの導入は上流工程が鍵を握る!
物流に関わらず情報システムの開発や導入に関わるトラブルは絶えません。なぜ、このようなトラブルが絶えないのでしょうか?例えば、医療機器大手のテルモは物流管理システムの刷新に失敗して、開発委託先のアクセンチュアを相手取り、38億円の損害賠償を求めて提訴しました。テルモはアクセンチュアが「完成に導く義務を履行しなかったこと」、「プロジェクトマネジメント義務に違反したこと」の2点を指摘しており、それにアクセンチュアが反論するという構図となっています。
失敗となってしまった要因を分析したところ、「複数機能間の整合性の不足」、「業務に即していないテストシナリオ」、「不十分な品目マスター」などが挙がりました。そのため、基本設計まで戻って作業をやり直す必要があり、当初の稼動には間に合わないということで訴訟へと発展しています。
このように、要件や設計の詰めが不十分であるために開発が凍結や中止となるケースは、残念ながら少なくありません。委託者側の責任として、自分たちのやりたい事を漏れなく確実に委託先へ伝えているのか、受託者側の責任として、委託元の企業の目的が達成できる仕組みになっているのか、業務に即した仕組みとなっているのか、これらを双方で十分に確認しながらプロジェクトを推進することが重要となります。
万が一、重要な要件が欠落してしまった、運用として無理があった、といった場合には「やり直しによる莫大な費用の加算」や「当初納期からの大幅な遅延」に発展します。要件定義や基本設計(画面レイアウト、遷移、システムインターフェースなど)の上流工程のデキが情報システムの導入の成否の鍵を握っているといえます。
では、失敗のリスクを最小限に抑えるためにはどうすれば良いのでしょうか?まずは現行の業務を正しく理解する必要があります。正直、ここを疎かにすると失敗します。その上で、やりたい事を実現するための新たな業務フローが実運用に耐えるものとなっているのか、既存の業務を意識するあまり複雑なシステムとなってしまう可能性はないかなど、やりたい事や実運用を想定しながらも、可能な限りシンプルな仕組みを目指すことをお勧めしています。
情報システムはパッケージなのかスクラッチなのか!
情報システムを導入する際に、常に起こるのがパッケージなのかスクラッチなのかという議論です。パッケージとは、既成品として汎用的に利用できるソフトウェアです。ソフトウェアベンダーから提供されている仕組みをクラウドやオンプレミス(クラウドではなく自社内で運用する方式)で利用します。一方で、スクラッチは、自社の仕様に合わせてゼロからシステムを構築するものとなります。
「パッケージとスクラッチはどちらが良いの?」といった質問を受けますが、一概には回答ができません。一般的には、対象となる情報システムが自社のコアビジネスに関与しており、他社と差別化したいと考える場合はスクラッチ、差別化よりも業務の標準化や合理化をしたいと考える場合にはパッケージを採用するケースが多いように感じます。物流をコアとする中堅~大手の事業者であればスクラッチでも良いと考えますが、それ以外の企業はパッケージを選択することを推奨しています。短納期で導入できること、顧客の声を取り入れたバージョンアップにより日々進化することなど、パッケージにはスクラッチにはない多くの魅力があります。
荷主企業の立場では、パッケージと似たような選択肢として、物流事業者が提供する情報システムを利用することも可能です。ただし、この場合は注意が必要です。物流事業者が提供する物流システムと荷主側の情報システムが密接に連携してしまうと、物流事業者を入れ替えることが困難となってしまいます。標準的な連携仕様とする、標準的な機能の利用に留める(カスタマイズは極力行わない)、といった対応により、緩やかな連携に留めることが必要となります。荷主企業と物流事業者のパートナーシップは重要ですが、一方で、一定の緊張感を保つためにも荷主企業としては「物流事業者はいつでも入れ替えることができるぞ!」といった牽制を働かすことも重要です。
逆に、物流事業者としては、自社の情報システムを荷主企業にとって不可欠なものにしてしまうことで、荷主企業を囲い込み、物流事業者の切り替えが容易にできないようにしてしまうことも重要な戦略といえます。「図表1.物流システムの運用パターン」は、荷主企業の立場から①物流サービス付加価値型(物流に対する競争力や付加価値を追求)、②物流コスト抑制型(一定のサービスレベルを維持してコストは抑制)、③物流管理機能スリム型(物流に関する管理業務や体制を極力スリム化)の3タイプの情報システム(特にWMS)の持ち方を整理したものです。
図表1.物流システムの運用パターン
2024年問題を契機に、荷主企業としてもこれまで以上に物流効率化を意識した取り組みの推進は不可避となります。過去に「3PL」というキーワードが一般的に使われるようになり、「コア事業への選択と集中」という合言葉のもと、荷主企業が物流管理機能をスリム化する(いい方は悪いのですが丸投げの状態)方向に動いていましたが、ここにきて管理機能を取り戻す企業が増えているようにも感じます。一定の物流管理機能を有して、物流改革にも自発的に取り組みを行える組織の強化を期待したいところです。
情報システム導入の全体像を理解する!
情報システムの導入ステップはスクラッチとパッケージで異なりますが、近年はパッケージを選定して導入するケースが増えています。そのため「図表2.情報システムの導入ステップ(パッケージ)」ではパッケージをイメージした全体のステップ示しています。本ブログはここまでとなりますが、お役立ち資料では、図表2の網掛けした「導入~選定評価」までの上流工程を対象に解説しています。情報システムの導入を検討されている方や初めて要件定義をされる方はぜひダウンロードして参考にして下さい!
お役立ち資料はこちら
図表2.情報システムの導入ステップとお役立ち資料の範囲(パッケージ)
(この記事は2024年5月31日の情報をもとに書かれました。)
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